exhibition " N / M / L"



広尾交差点のそばから
大使館旧庁舎へと向かう路。


目印のグラフィティ。
〈NMLゲート〉はもうすぐ。


大使館到着。
黒い〈NMLゲート〉をくぐる。

多くの大使館が建ち並び、さまざまな国籍の人びとが闊歩する広尾の街。昼下がりのにぎやかな大通りを抜けて有栖川公園近くの閑静な路地を5分ほど進むと、グラフィティの描かれた円塔を目印に、広い敷地を有する大きな建物が現れる。在日フランス大使館の旧庁舎だ。1957年から52年間もの間、数多くの来訪者を受け入れてきた旧庁舎は、老朽化のために昨年大使館の移転が決まり、惜しまれながら取り壊されることになった。

建物のなかを忙しく走り回っていた職員たちも去り、がらんどうになって解体の日を待つばかりになったこの庁舎を、アーティストたちのために解放しよう。そうして生まれたのが、このアートイベント〈No Man's Land〉だ。どうせ取り壊されてしまうのだから、改造OK。壁に描こうが釘を打とうが、すべてはアーティストの自由。入場も自由。まさに〈アートと自由を愛してきた国〉フランスらしいイベントかもしれない。テーマは〈創造と破壊〉と決まり、イベントは〈誰のものでもない場所〉=〈No Man's Land〉という名が名づけられた。

当初2009年11月末から2010年1月までの開催予定だった〈No Man's Land〉だが、予想を超える来場者数と反響に会期の延長が決定。この急遽決まった〈後半ステージ〉に、日仏のルーツを持つ〈Kenzo Parfums〉の後援、クリエイティブチーム〈Someone's Garden〉とギャラリー〈YUKA COMTENPORARY〉の呼びかけで若手アーティストたちが集い、別館を舞台にして〈No Man's Land 2―exhibition N/M/L〉と題された新たな展示が行われることになった。このタイトル〈N/M/L〉は〈No Man's Land〉を意味するとともに〈Nouvelle Metamorphose du Lieu〉=〈新しく 変わりゆく 扉の向こう側〉という新たなテーマを含んでいるという。

〈N/M/L〉の舞台は会場入ってすぐ左手の別館2、3階フロア。20数組のアーティストたちが思い思いの展示空間を生み出している。いざ足を踏み入れると、去っていった職員たちの気配を残した部屋あり、大きな窓越しに2万5千uを超える敷地の木々が風に揺れる部屋あり。〈Metamorphose〉の言葉どおり、会期中作家が手を加え変化しつづけている部屋もある。時間の流れを感じさせる旧庁舎のなかを行き交う来場者は老若男女、年齢も国籍もさまざまなのが印象的。アート好きの人も、近所に住む人も、大使館の〈最初で最後の一般公開〉を目当てにやってきた人も、一緒になってこの空間を楽しんでいるようだ。


INTERVIEWS


01|天野弘子

鎮魂――去ってゆくものへ

──普段もインスタレーション作品を中心に制作されているのですか。

いえ、普段は写真の仕事をしていて、今回の作品がはじめてのインスタレーション作品です。つくっていて楽しいですね。

──今、部屋のなかに糸を張っていらっしゃるところでしたが、会期中も手を加えつづけているのですか。

はい。頭のなかに決まった設計図はありません。手の動くままにつくっています。

──この作品はどんなテーマを持っているのでしょうか。

〈鎮魂〉です。窓のある北に向けて、ものたちが飛び去っていく。そのイメージを核にすこしずつ作りつづけています。なぜ北へ向かっているかというと、北は〈死〉のイメージなんです。

──見ていると、日の光が差す窓の方へ直線を描いている糸の束の流れが、風や時間の流れのようにも見えてきました。〈此処から去ってゆくもの〉というのは、この建物にも重なるのでは。

ええ。この部屋には〈かつてここにいた人たち〉の気配がありますね。

──〈去るもの〉や〈死〉のイメージを抱いた作品にしては、まったく暗くないのが不思議です。白と鮮やかな色が印象的で、むしろ光のようなものを感じます。

確かにそうですね。〈はかなさ〉を描いているのですが、そこに暗いイメージはないんです。


02|東海林巨樹



紙モノへのフェティシズム

──これらの作品はどういうコンセプトで制作されているのでしょうか。

コンセプトというより、とにかく紙モノが好きなんです。感触だとかも含めてすべて。それで紙を使った作品を作りつづけています。

──制作にはグラフィックソフトを使うこともあるのでしょうか。

いいえ。
すべて手を使ったものですね。

──今回、部屋の壁面いっぱいに描かれていますね。

部屋を自由に使っていいという機会は珍しい。楽しんでいます。

──これからはどういう活動を?

これからは電子書籍なんかが増えていくと思うのですが、紙モノにはなくなってほしくない。紙にしかない魅力や可能性がありますから。今、ジンに関心を持っています。昨年は〈ユトレヒト〉さんが開催した〈Zine's Mate〉にジンを出品しました。また〈No Man's Land〉に続いて、今度はグループ展を行う予定です。

――この〈No Man's Land〉でなにか印象に残ったことはありますか。

地下の部屋が謎ですね。二重の鉄格子がある。いったい何に使われていたんだろうと考えています。


03|小野英樹

日常という異相へ

──不思議な絵ですね。絵のなかには人も動物も誰一人出てきませんが、これは今回の〈No Man's Land〉=〈無人地帯〉にも関係しているのでしょうか。

いいえ、特には関係ないです。人がいないというのは、中心を作りたくないからなんですよ。人がいたら、きっとそこを見てしまうでしょう。そうすると、その絵が〈中心とその周囲〉になってしまう。そうではなく、中心のない〈絵そのもの〉を目の置きどころの定まらないままに見てほしいんです。

──小野さんには作品に反映しているような〈原風景〉のようなものがあるのでしょうか。

そうですね……僕は宮城の田舎で育ったので、その故郷の風景はあるかもしれない。山だとか土だとか。思い返すと、当時〈ここにある土を全部はがしてみたらどんな感じだろう〉なんて想像していましたね。ただ、作品についてはそんな田舎の風景よりも、今日常で目にしているものの影響の方が大きいと思います。いつも外を歩くとき、目に映るものをとにかくじっと観察しているんです。駅舎だろうと、ガードレールだろうと、日常にあるものがすごく面白い。その〈異様さ〉に気づくんです。僕の作品はその〈日常の観察〉から生まれています。

──作品を見た方にどんなことを感じてほしいですか。

言ってしまえば、僕は絵を描いてるけれど、絵が主役ではないんです。僕の絵は絵の外にあるもの、つまり〈日常という異相〉に気づかせるための〈媒体〉でしかない。お客さんが僕の絵を眺めたあとに部屋の細部に目がいき、それまでとは違った感覚を抱く。部屋を眺めて、自分がいる空間にあらためて見入ったり、入り口付近に立てかけた板につまずいてギョッとする、とかね。そんな様子を見ると、ニヤリとしてしまいます。


04|西村大助

線と空間が生み出す浮遊感を求めて

──この絵はいつから描き始めたのですか。

描き始めたのは会期の前日から。期間中すこしずつ描き加えていく予定です。会期の終わりの頃には部屋中に広がっているかも。

──何を描いた作品なのでしょうか。

何を描いているというよりは〈浮遊感〉をテーマにしています。ひたすら線から生まれる〈浮遊感〉をもとめて描いている。

──〈浮遊感〉とは何から生まれるのでしょうか。

ひとつは自然界に存在しない〈クロス〉や〈完全な直線〉を排除すること。もうひとつは〈線と空間〉の関係ですね。僕は学生時代に生物物理学を専攻していたんだけど、内蔵も含めて人間の身体ってすべてが美しい線で構成されている。脳みそのような臓器を描いたって、本当はグロテスクじゃなく美しい線が現れるはずなんです。だから僕の絵は、自然界に存在する有機的な線のみで構成されていて、逆に言えば自然界に存在しない〈クロス〉や〈完全な直線〉を徹底的に排除して描いています。ほら、人間の身体には〈クロス〉がないでしょう。

──たしかに〈クロス〉は人間が作った最初の記号といいますね。森のなかで目印に〈クロス〉を使うというのは、自然界に存在しないからなのかも。

まさにそう。僕の絵のなかに唯一現れる直線は、壊れた組織の断面なんだけど、これは〈破壊〉こそが〈再生〉や〈創造〉の始まりであって、移りゆくものの姿だから

──もうひとつの〈線と空間〉の関係についてはどうですか。

〈線と空間〉の関係は感覚的なものなんだけど、線を描く上で意識しているのは〈想像を裏切る〉ことです。たとえば、ここに指の一部を描く。そうすると見た人はその先の線を想像で補って〈ああ、これは指の絵〉だと思うでしょう。その線を途中から違う線へと繋げていく。すると、想像が裏切られて、そこに気持ちのよい〈浮遊感〉が生まれるんです。

──想像を裏切られた瞬間に、想像で無意識に限定していた世界がバッと広がる感じですね。

そう。それが〈浮遊感〉につながっている。


05|waitingroom
(山内 真)

不在の痕跡

──今回の参加の経緯を教えていただけますか。

三軒茶屋で〈waitingroom〉という小さなギャラリーをしています。国内外の若手作家が中心のギャラリーです。今回〈Someone's Garden〉さんから声を掛けていただき、〈No Man's Land〉=〈無人地帯〉という語義から〈ある不在の痕跡〉というテーマでの参加を決めました。本展に捧げる3名の作家のグループ展です。

──〈不在の痕跡〉展のコンセプトについてもう少し詳しく教えてください。

吉田、武居、加藤、この3人の作品には通底するキーワードがいくつかあります。〈風景〉と〈日常と非日常〉そしてタイトルにも挙げた〈不在の痕跡〉です。誰かがいたかもしれない。しかし、そこに残っているのは誰かがいたかもしれない痕跡だけ。それは空気のような何となく感じる残り香のような存在です。誰が、どうやって……そんな読めない文脈がざわざわとした不安を生み、だからこそその痕跡は想像力に訴えかけるものだと思うのです。

──3名の作家さんについて教えてください。

私たちの展示は〈不在の痕跡〉をテーマにしたものですが、この建物自体がひとつの大きな〈不在の痕跡〉といえるのではないでしょうか。この旧庁舎で数多くの職員が日々働き、多くの来訪者の面倒を見てきた。そのことを思います。

──この〈No Man's Land〉について感じたことはありますか。

ええ。この部屋には〈かつてここにいた人たち〉の気配がありますね。


06|Peter Kutin+
Mamoru

日常にあるモノを未知化する

――演奏している間はどんなことをイメージしているのでしょうか。

うーん。特に何かをイメージしてはいません。とにかくそこに生まれた音を感じることに集中しています。ひたすら次の音へ、次の音へという感じですね。

――演奏に使う道具のセレクトが珍しいですね。

使っている道具はすべて日常で使うものです。ペットボトル、振動カミソリだとか。なぜ日常で使うものしか使わないかというと、日常で何気なく使っているモノを〈未知化〉したいから。そのモノの音を聴くことで、日常のなかにあって何も感じずに接している〈普通のモノ〉が急に不思議に見えてくるでしょう。演奏すると、子どもなんか大喜びするんですよ。演奏中に〈ぼくもやりたい!〉って奪われたこともある(笑)

――今日はお二人での演奏でしたが、誰かと組まれることが多いのですか。

普段はひとりで演奏することが多いんだけど、今回みたいに誰かと組むこともあります。相方がいい音を出せば、こちらがひいて引き立てるし、共鳴する音をかぶせたり。オレがいい音を出したときは、相方がひいたり乗ってきたり。言葉を使わずに音で会話している感じ。Peterは組みやすいですね。ちゃんと会話が出来るから。


PICK UP

01|BOOKSTORE〈Books for the ambassador〉

〈ユトレヒト〉〈BNN出版〉〈Someone's Garden〉によるセレクトブックストア。アートブック/ジン/メディア評論/カルチャーを中心に〈在日フランス大使の書斎〉というコンセプトで選ばれた本が並んでいます。店内にはなぜかいい香りが……と思ったら〈Kenzo Parfums〉のフレグランスが置かれていました。〈Kenzo Parfums〉からは〈KENZOAIR〉のフリップブックとポピーの種を配布中。フリーのグッズは在庫がなくなり次第終了のためお早めに。


02|QUESTIONS 4 QUESTION

渋谷駅前の巨大スクリーン8面を用いた映像プロジェクト〈Q4Q project〉より〈FLOWERBYKENZO〉を含む映像作品8点を上映中。
部屋の白い壁にはポピーの花が。


03|足立喜一朗

本物の動物の剥製を用いて可愛らしく飾り立てられた〈高級遊具〉はシニカルな空気が漂う。乗ってみたいという欲求に抗えず作品を跨いでしまった人もいるとかいないとか。本作品は大変繊細で傷みやすいため〈DO NOT TOUCH〉です。よろしくお願いします。


04|Takram

話題のデザイン・エンジニアリング・オフィス〈Takram〉のプレゼンテーションルーム。なかでも2007年の21_21 DESIGN SIGHT〈WATER展〉にも出品された〈furumai〉という作品の前には人だかりが。超撥水素材を用いたお皿の上で見せる、水の不思議な表情に来場者の目は釘づけ。蓮の葉と同じ原理の作品なのですが、来場者からは「きっと普通の水じゃないんだね」との声も。いいえ、普通の水なんです。


TEXT=原田潤
1982年東京生まれ。デザイン事務所〈Schtucco〉に勤務しながら個人でも活動中。
幾多の古本を興味のままに〈群島〉のように繋ぐオンライン書店〈Archipelago Books〉2010年開店予定。